「督促にフタ」はよくないぞ。図書館にとっても利用者にとっても

ボツ(?)になった投稿を発表しますよ

あれから2か月たちました
図書館雑誌 2010年10月号(Vol.104 No.10)所載の『督促』と称するコラム<窓>について、図書館の督促事務にかかる住民票請求について、住民票を交付する職にある著者の経験について、住民基本台帳法における間違った記載について、訂正を求める投稿をしました。
日本図書館協会図書館雑誌編集部あて送った原稿はたしかに届いたらしく、「受取確認のハガキ」をいただいたのですが、

日本図書館協会からの一足早いメリークリスマス
 http://d.hatena.ne.jp/hatekupo/20101026/1288091215 

にも書いたように、10月を12月にするという、おふざけにもほどがあると思いましたが、やはり、ボツ(保留扱い)だそうな。
基本「図書館雑誌」は、日ごろ投稿も少ないだけに*1、多少の「下剋上」だって掲載されてきたはずです。
とりあえず、投稿内容を原文ママ掲載します。

本誌10月号「窓」における住民票の取り扱いについて
本誌2010年10月号所載の「窓」における『督促』と題する川越峰子氏執筆のコラムでは、図書館の督促事務にかかる住民票請求について、住民票を交付する職にある同氏の経験を交えて語られておりました。
 日々困難化する図書館の督促業務について、問題を提起することは重要であるし、「住民票の活用」について言及した同氏の姿勢には敬意を表したいところです。
 が、遺憾ながら同氏の記述内容と言動には住民基本台帳法(以下「住基法」という)に照らして、適切でない場面、督促事務にかかる職員に対して誤解を与えるような場面が見受けられました。
 ついては、氏と同じく住民基本台帳事務・証明交付事務に従事する職員として、同氏の語られた経験談における判断・法解釈の誤りを指摘し、読者各位の法への正しい理解と、督促事務における「住民票」の活用を訴えるものです。


住民票について、同氏によれば、
「公用の請求も例外ではなく、請求にあたって根拠法令を明示することになった」
 とありますが、この記述は正しくありません。
 住基法では“国又は地方公共団体の機関による住民票の写し等の交付請求(以下、「公用請求」という)”の取り扱いについて、“明らかにしなければならない事項を次のとおり定めております。(住基法第12条の二第二項)

一  当該請求をする国又は地方公共団体の機関の名称
二  現に請求の任に当たつている者の職名及び氏名
三  当該請求の対象とする者の氏名及び住所
四  請求事由(当該請求が犯罪捜査に関するものその他特別の事情により請求事由を明らかにすることが事務の性質上困難であるものにあつては、法令で定める事務の遂行のために必要である旨及びその根拠となる法令の名称)
五  前各号に掲げるもののほか、総務省令で定める事項

 このように、根拠法令の提示が必要な場合は、“犯罪捜査に関するものその他特別の事情により請求事由を明らかにすることが事務の性質上困難であるもの”という極めて限定されたものです。
 そもそも、わが国では法治主義をとっており、行政の事務執行は法令・条例・規則に基づいて実施されるものすから、その一環としての「公用請求」もまた、なんらかの法に基き行われる行為であることが予定されているからです。
 今回、図書館からの請求に対し、同氏は
「図書館からの請求には根拠法令が書かれてなかったので、あえなく返戻することになった。」
とあります。
当該図書館の請求内容・書面を見なければ、「返戻(この言葉はあまり使われていないが、その自治体だけで流通していることばなのでしょうか? 本来は「不受理」「却下」などが使われるが)」の理由はわかりません。
しかし、“根拠法令が書かれてなかった”ということでは、住基法に基づく「返戻」の理由とするのは誤りです(もし、氏の勤める横浜市戸塚区役所が、別にルールを設けていて、同氏がそれに従ったのだとした場合であっても、地方自治体の条例規則よりも法律が優先される「法律優先の原則」があるから、そのルールは無効・違法であり、氏の判断は不適切であることにかわりはない)。

 「返戻」をした請求の中で唯一、問題があったとすれば、おそらく「請求事由」記述の不足等でありましょう。
 しかし、このような場合であっても、担当職員が相手方より適宜事情を聴取し、なおかつ疑義があるとしたら、必要に応じて決裁権者の意思決定にゆだねればすむことです。
 また、「請求事由」を検討する中で、どうしても根拠法令を参照しなければならない事態にあっても、法令や条例は、法令提供データベースや各市町村の例規提供Webサービスなどで閲覧できるので、特に請求者に添付を求める必要性は認められません。

 このような判断のあやまりは、当該自治体で、二重の意味で損失を招いております。氏が不適切な判断・対応で、督促業務に従事する図書館職員の事務執行を妨げたこと、そしてそれによって資料管理や利用者の公平な利用を阻害する結果となりますから。

 最後に、川峰氏に申し上げます。
 私も、3月まで図書館司書の任にあり、4月からは前述のとおり、市役所において住民基本台帳にかかわる仕事にたずさわっております。私は前職である図書館司書に誇りと愛着を持ち続け、図書館に従事する職員の請求には、法の許す範囲内で、できるだけのことをしてやろうと心に秘めております。それが長くにわたりお世話になった図書館への恩返しであると同時に、「公共の福祉」に寄与しようとする今の職責あってのことです。
図書館司書と住民票の交付、いずれともにあなたの方が長いキャリアを有し、今でも日本図書館協会の要職につかれているあなたにそういう気概はありますか?

なぜ、ボツになったか、自分なり考察

この原稿を読み返すと、たしかにカッカしすぎているきらいはあるし、「川越氏」を「川峰氏」と、間違えたりして、粗野・荒削りな印象はあります。
まぁ、編集部から見れば、コラム「窓」住民基本台帳法上多少破たん=割れ窓であったところで、それが図書館以外の場でおこったエピソードであれば、ガン無視をするのは仕方がないことですが、私も、そのあたりを承知のうえで書いたのは、「割れ窓理論*2」のためです。なんといっても「窓」ですから…
もちろん、編集委員の某氏の語ること(弁解?)によれば、
「(編集委員に)住民票について知る人がいない」
という由だが、これはおかしいと思う。真贋がはっきりしないでも掲載し、再度執筆者(川越峰子氏)からの再反論を掲載すればよい、それこそ「討論」というものです。

やはり「督促にフタ」?

ともあれ、「窓」を閉ざされてしまったわけですが、私は編集部のどうでもいいような意図を感じてしまいました。
「督促」というのは、図書館業務でも大変な労力を要する仕事ですが、同時に公式的な場ではあまり語られたことがないことを知っています。そう、「督促」は、禁忌(タブー)と言ってもいいでしょう。
利用者のマナー・モラルの低下は多くの図書館員を嘆かせています。同時に、あまり表面化されると、たとえば、新聞社などに“税金泥棒を放置!”などと書かれたりするとまずい結果をもたらします。良識ある利用者は眉を顰めるでしょうし、わがままな市民は開き直ったり、模倣犯をしようとします。市財政当局は財務規則違反として、人事部課は勤務態度云々をいいはじめ、とにかく、信用の失墜、ひいては
「図書館崩壊」
にもなるでしょう。

「督促」は、「図書館の自由」を守る諸策の具体化である

遺憾ながら、私の先輩は「督促」について、次のように不貞腐れた発言をしています。
「たかが千円平均の資料一つを“督促”するために、人件費や郵送料をかけるのは、ムダなんだよ。」
しかし、公共図書館における貸出と督促は、単なる損得勘定ではすませるわけにはいきません。
図書館の自由に関する宣言」は、次のように述べています。

すべての国民は、図書館利用に公平な権利をもっており、人種、信条、性別、年齢やそのおかれている条件等によっていかなる差別もあってはならない。

ある特定の個人が、資料を他人より長く利用したり(延滞)、ながくにわたり独占し返却しないことは、この規定にもとるものです。
もっとも、
最近の日本図書館協会ほど不公平を容認している公益法人(予定)はない!とも、思えば仕方ありませんが…

社会教育機関として

また、重要なことは、図書館が社会教育の場であることです。とくに子どもについて。子どもが自主的に用いる公的機関としては、図書館はおそらく最初の部類に入ると思います。そして、図書館の貸し出しは、一種の契約であり、社会規範の順守であり、ルール・マナーを学ぶ場でもあるのです。年少の頃からそれを破ることを“放置”していては、社会教育機関としてはあべこべの結果になることでしょう。

遺言

私も、このブログ、いいかげんイヤになってきました。特に過去、資料費について、昨今の経済事情もかえりみることなく「絶対に譲れない」「資料費削減絶対反対」という人があまりにも多いからです。この際ですから、「資料費命!」について譲るとしても、資料費を真に大事に考えるなら「督促」も、きちんと、恥じることなく、毅然と、凛として威風堂々やってほしい、そう願わずにはいられません。
私は3月で日本図書館協会を退会しますが、このブログも「退会」しようと思っています。

*1:もっとも、最近では幹部批判はすべて焼かれるのかもしれませんが

*2:建物の窓が壊れているのを放置すると、誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなく全て壊される、という社会理論