有能な司書は魔術師。そして、魔法は「人」とともに消えゆく…

AKB48じゃんけん大会も吹っ飛ぶ、衝撃的なニュース

本来ならAKB48じゃんけん大会にうつつを抜かしている頃あいですが、とてもそのような気分になれないような記事です。

・貸出冊数を虚偽報告15年間で89万冊水増しか 横芝光町立図書館の元職員
 http://www.chibanippo.co.jp/news/chiba/local_kiji.php?i=nesp1316227995

これについて、なじみのブロガー各位も、失礼ながら、まったくワケがわからないようで、ブクマコメントを見ても、あっけにとられた表情が目に浮かぶようです。

http://b.hatena.ne.jp/entry/www.chibanippo.co.jp/news/chiba/local_kiji.php?i=nesp1316227995 

じつは、私は当該職員の方と懇談したことがあります。お互いアスリート気質をもち、奇しくも平成21年度いっぱいで図書館のカウンターを去った(彼は民間、私は公務員ということで対照的な“その後”ですが)という共通点もあり、私の方から一方的な親しみを感じておりました。
情に流されることはよくないことです。
憶測だけで語ることの愚も存じております。
ただし、彼の名誉を守る、というよりも同じ時代を生きた者、場所を違えど図書館司書の職にあった者として、話さずにはいられません。
そう、彼こそはわたしのベンチマークであるとともに、私の拡張拡大版、デラックス版であったのですから…

貸出数を【駆け上がる喜び】

前にもさんざん書きましたが、私は
「筋金入りの貸出至上主義者」
です。なぜ“筋金入り”かといえば、
「それ(貸出)だけじゃだめなんだと、わかっちゃいるけどやめられない」
性分だからです。つまり確信犯的にやっている、だからよけい官能というかやめられないのです(かくいう私でもタバコはすっぽり止めました。ですから喫煙者から「意志が弱い」とか「依存体質」といわれれば激怒します)。貸出統計がグングン伸びていくのを眺めるのは、BMW直列6気筒エンジンが1500回転から6000回転に一気に吹きあがると同じくらい、官能的・エクスタシーです。
ただし、ヤボをいえば、「貸出伸ばし」というもの、これはひっそりやっているからゲーム的に面白くやっているのであって、民間的に「ノルマ」を課されたらつまらないとも思います。逆に貸出数を増やしても、貸出返却等の手間が増えるだけで「金一封」がもらえるワケでもありません。
「それでは何の意味もないじゃん」
といわれれば、それまでです。ただし司書は程度の差こそあれ「奉仕の精神」を持っていますから、その琴線に触れる、という意味もないといえばウソになります。

経験のある司書なら貸出数を伸ばすのは造作もない

自負するわけではありませんが、私は16年間のあいだ、3〜4年で貸出数を倍にする「快挙」を3回も経験しました。もちろん、たった一年で一気に2倍までに高めるとまでには行きません。ただし、対前年比3割増し・130%を3年続ければ2倍になります。
指名打者ばりに「貸出」に特化した私ですが、それくらいの芸当はしてみせますよ。それが「専門性」かといえば、うなずきかねますけど。

職員次第で(水増しなしで)貸出が伸びる、それも司書の専門性だ

以上のように、私のような愚の司書であっても、「貸出のばし」は、本気(マジ)でやればそれなりの成果をおさめることができます。それがいいことかどうか、判断はみなさまにお願いしますが、職員の「がんばり」とか「やる気」で図書館も貸出統計も変わるものです。
さて、件の記事を見てみましょう。

町議会の2010年度一般会計決算の認定議案の審議で、町議が図書館の貸出冊数が09年度と比べ、10年度は大幅に減った理由について質問。町側は「退職した職員が報告書に水増したデータを入力していた。(職員退職後の)10年度の冊数のみが実数だった」と、虚偽報告の事実を認めた。

法令・コンプライアンス遵守の点で「禁じ手」である「水増し」や「粉飾決算」というものが、後を絶たないのは数字を実像以上に報告したいがためです。
この文章でまず注目したいのは、
「虚偽報告の事実を認めた」
のは町側ということです。
もう少し細かいことに目を向けると
「退職した職員が報告書に水増したデータを入力していた。(職員退職後の)10年度の冊数のみが実数だった」
“水増しデータ”を“退職した職員”が“入力していた”
と断言していることも不思議ですし、
“職員退職後の)10年度の冊数のみが実数だった”
という説明も説得力あるとはいえません。

私の推理では

あくまで「推理」ですが、記事の一節、この問題が顕在化した理由ですが、

町議会の2010年度一般会計決算の認定議案の審議で、町議が図書館の貸出冊数が09年度と比べ、10年度は大幅に減った理由について質問。

とあります。
当該職員の“魔法”で驚異的な貸出を誇っていた図書館。まさに“マジック=魔法”ともいえるでしょう。しかし、
魔術師(当該職員)が去れば、魔法もとける
というものです。
貸出数が対前年比で大幅ダウンすれば、議会で取り上げられても不思議ではありません。
かといって行政当局からすれば、
「昨年退職した職員が優秀だったから」
とは言えないでしょう。
「そんな優秀な人材をなぜ辞めさせた」
とか
「今いる職員を教育し、元の水準に戻せ」
という議論になり、労務対策他、行政幹部にとってのぞましくない流れになってしまうからです。
そこで考えたつじつま合わせは、アフターを「スタンダード」として、それ以前を「アブノーマル」とすること。つまり、
当の職員が水増しをしていた
という説明ならば、今の幹部にとって痛むことはありません。「死者に口なし」ならぬ「退職者に口なし」です。
それでも、わたしは「退職」した「司書」が真相を語ることを望みます。その「司書」の名誉のためでなく、全図書館界の「名誉」のために…