官製(館製)ワーキングプアと規制緩和

とある首都圏近郊の委託図書館員の給与を概算で見積もってみました。

  • 時給770円×4.5時間=3,465円(日給)
  • 日給3,465円×4.5日×52週=810,810円(年収)
  • 年収810,810円÷12月=67,568円(月収)

となります。配偶者特別控除を楽々クリアです。さらにこの中から所得税を引かれ、国民健康保険税等を納めるとなると、単身で生活を営むのは辛いものがあります。それなりの収入を得ている配偶者または同居の親族でもいない限り、生活は成り立ちません。

興味深いのは生活保護。条件は異なりますが(東京都)、20代単身世帯の場合

  • 第1類 40,270円(20-40歳)
  • 第2類 43,430円(単身世帯)
  • 住宅扶助 (最大)53,700円
  • 合計 137,400円(月額)

単なる収入だけで比較すれば2倍の差があります。もちろん所得税等はかかりませんし、ほかにも各種公租公課の減免や、就学援助の支給など各種条件に合わせた加算・手当等がありますから、実際には、この差は大きく広がります。

同じ臨時的任用でも社会福祉主事ケースワーカーは、さすがに待遇がよいらしいようで、日額7,270円。ただし8:30から1時間の休憩をはさんで17:15までの7時間45分勤務です(民間の賞与に相当する「期末手当」はないらしい)。おおよそ月給157,000円程度でしょうか。勤務時間が長いだけに、金額では生活保護受給額を上回りますが、それでも所得税社会保険雇用保険・厚生年金の本人負担分等を差っぴくと、こちらも似たりよったりといったことでしょうね。よく“お客の身になって対応しろ”などといわれますが、これならお客(生活保護受給者)との生活に大差がありませんから、同じ目線になること請け合い。っていうか、ケースワーカー生活保護受給者の(実質上の)収入がほぼ同額といことでは、ケースワーカーさんの「勤労意欲」も失せるというものです。

このような「官製ワーキングプア」については、従来より、待遇改善向上を願っての運動なり意見表明がされてきました。もっともなことです。
ただし、

という、根本的なシステムが成立してしまっているからには、なかなか効果は出ないのも仕方のないことです。
とはいえ、官製ワーキングプア問題は、その当事者にとっては切実なことであり、根本治療(待遇改善)が難しいならば、対症療法をも考えてみる必要があると思うのです。
「官製ワーキングプア」たる所以は、営利企業の従事制限、早いハナシが“バイトはいかんよ”というもの。面白いことに、「民間」であるはずの「委託」や「指定管理者」でも、この規定を準用していることです。これは、地方公務員法に、

(営利企業等の従事制限)
第三十八条 職員は、任命権者の許可を受けなければ、営利を目的とする私企業を営むことを目的とする会社その他の団体の役員その他人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則)で定める地位を兼ね、若しくは自ら営利を目的とする私企業を営み、又は報酬を得ていかなる事業若しくは事務にも従事してはならない。
2 人事委員会は、人事委員会規則により前項の場合における任命権者の許可の基準を定めることができる。


という、定めがあるからご法度になります。
ただし、この法の目的はといえば、公務員としての立場や地位を利用した営利行為、あるいは許認可等の濫用を防ぐためのものです。
いわゆるパートタイムで働く臨時職員等の方々には、おおよそ意味のない規制ですね。
私が提案したいのは、この法の運用で「非常勤・臨時」を対象外にすることです。つまり「規制緩和」です。

  • 朝ファーストフードのバイトしてから、午後図書館のカウンターに立つ。
  • 土日定休の居酒屋でバイトして、週末には図書館のシフトにはいる。

自分で言うのもおかしいですが、案外イケるかもしれません。

「おまえの主張は“図書館だけではメシは食えないなら、他でバイトして働け! 稼げ!”と言いたいのか!」

と、激昂される方も多いことでしょう。ごもっともなハナシです。
ただし、このような雇用形態が発生した場合、図書館にとってもプラスになる可能性があります。
日ごろ、泥酔客のあしらいに慣れている居酒屋店員がクレイマーをあやしてみたり、ファーストフードチェーンで「接客マナー」を身につけた人が笑顔をふりまく…これぞ「民間活力導入」です。
そもそも英米で民営化(Privatization)が進展したのは、規制緩和(Deregulation)にともなう競争促進・活発化の土壌づくりであったわけです。規制緩和なくして民間活力導入は語れない、というのが常識だったワケですから…

まぁ、こう書きますと、往々にして談論空発みたいな方々が、
「図書館とファミレスをいっしょにするな!」
とカッカする顔が目に浮かぶようです。
しかしながら、図書館の使命・役割・重要性を“貸出し”という、きわめて低次元・単次元なカタチで集約してしまった連中には、
「おまえのせいだろ!」
とでもいいたくもなりますが…