(Web)OPACが推進した「ベストセラー追従・集中・偏重」〜私がチラ見した「ベストセラー」重視・偏重2

無料図書館大戦争の戦時下で

 「公共図書館無料貸本屋」「ベストセラー重視・偏重・追従」をめぐる論争が勃発したのはおそらく21世紀に入ってからのことだと思います。ここで話題となったのが“貸出し”をテーゼとした『市民の図書館』です。
 論争の中で疑問なことは『市民の図書館』が、1970〜80年代に完成したものです。長い時間をかけて理論と運動・実践や実績なるものが浸透・普及していった経緯はあるでしょう。ですが、それにしても、30年近い時を経て、副作用とか問題点なりが顕在化したり問題提起がなされるのには、あまりにも時間がかかりすぎています。
 出版業界からの批判とか著作者からの提言がなされたのは、無論、バブル経済から急転しての平成不況がもたらした出版不況が後押ししたという事情はあるでしょう。ただし、1990年代を図書館で過ごし、そのあと「無料貸本屋大戦争」の戦時下に身をおいた、自分の“感覚的な経験”からすると、「ベストセラー中心」に拍車がかかったのは、1990年代後半あたりから顕著になったように思われるのです。この期間は、実は(Web)OPACの普及と重なります。
 前回は、「ベストセラー」の処理に悪戦苦闘しつつも、ついつい“ベストセラー頼み”とか“著名作品・作家の文学に依存”しがちな図書館員について述べました。
 今回は一転して、Web−OPACがもたらした「ベストセラー偏重」について述べたいと思います。

Web−OPACがもたらす「新着集中」?

 (Web)OPACが普及すれば(同時に各家庭のインターネット接続も普及)、利用者さんは、誰もが「望みの資料情報」に接近できるようになり、利用者個々の抱える様々な問題意識や趣味思考にそった、多種多様な要望なり要求が「予約」というカタチで増えていってもおかしくはなかったでしょう。少なくとも、特定の資料に予約が集中してしまうような現象ばかり発生することはありえなかったはずなのです。ところが実際には、新着資料とかベストリーダーに人気が「集中」する現象ができてしまうのです。この原因はなにか、という視点で、まずは「集中」現象について原因を考えて見ましょう。

Web−OPAC自体が「新着」「人気」へ誘導

 まず、各公共図書館のトップページを拝見すると(あまり、多くを覘いたワケではありませんが)、“新しく入った本”のコーナーが目立ちます。中にはよせばいいのに「予約の多い資料」とか「貸出上位の資料」というコーナーまであったりもします。このように、Web−OPAC自体が「新着」「人気」へと、利用者を誘導している実態が多いような気がします。

OPACの操作性が

 この「新着コーナー」への“誘導”を特に推し進めている間接的な要素として、OPACの操作性があります。現在は多少改善されたとはいえ、初期のOPACは特に使い勝手が悪く、検索項目も「資料名」「著作者」などから一項目しか選択できないなどの不便なものでした。
 また、典拠コントロールなども不備・不十分であって、私のような「司書」の職にあった者であっても扱いに困るシロモノでした。
 このように、OPACそのものの基本機能である「検索」の機能が不十分であったり、親和性を欠くと、利用者は図書館の全資料からの検索を断念してしまい、その「代替」として、「新着コーナー」の中から資料を選択しようとします。その結果として利用者のアクセスは「新着」「人気」に集中してしまう現象が発生します。

それでは「新着コーナー」が、なぜ人気の集中を招くか?

 以上のように、利用者の興味関心は「新着」「予約上位」「貸出上位」に高まる原因を申し述べました。この中で「予約上位」「貸出上位」はともかく、「新着」がいかなるカラクリで、特定(人気)図書への“集中”を招くのでしょうか?

書誌情報の不十分

これは「新着コーナー」に限った話ではないのですが、OPACから利用者が受け取る書誌情報があまりにも無味乾燥で面白みがなく、望みの資料を選ぶのには正直適さないと思います。OPACを通じて入手できるMARCの書誌的事項、図書館(員)的ならば「OK」であっても一般市民はどう見るかということです。比較するのもナンですが(一応ここではそう書いたが、一般市民から見れば、図書館OPACもインターネット書店のWebサイトも“図書資料を知る手がかり”という機能で、十分比較の対象になっている)、「書影」「書評」などをはじめ、インターネット書店がもたらす資料情報に比べて貧弱であることは事実。少なくとも望みの資料を見つけ出す作業には向いていないため、おのずと人気作家・人気シリーズ=ベストセラー候補生を“安全パイ”として選ぶ可能性が高くなり、結果としてこれらの作品への「誘導」「集中」を招いてしまいます。

資料の“逐次投入”が

 さて、前回エントリでは、図書館広報活動で“図書館員のウケ線ねらい”によるベストセラー周知“が少なくないことを指摘しました。これはどう見ても意図的にやっているとしか思えないのですが、OPAC「新着案内」上では図書館員の意図・恣意にもかかわらず、ベストセラーを「連呼」してしまうような現象が起こってしまいます。
 この現象、元を正すと“新着”のとりあつかう時間的範囲によるところが多いのです。多くの図書館では、“新着図書コーナー”に掲載する資料を“受入年月日”で捉えています。館によって“新着”の対象はどこまで遡って取り扱うか、事情は異なりますが、ここでは「90日=3か月以内」を“新着コーナー”に掲示する館になぞらえて、シュミレーションしてみましょう。

  1. とある本(平成23年12月刊行)を本館が買う(平成24年1月)
  2. 人気が出てきたので分館でも受入(平成24年3月)
  3. 予約がたくさんついたので、たまりかねて複本を(分館含め)6冊注文(平成24年5月)
  4. そのうち、半分3冊はほどなく納本されたが(平成24年6月)残りは「出版社品切・重版待ち」となってしまう。
  5. 重版待ちの本がようやく入荷になる(平成24年8月)
  6. 最後の本が到着・受入して、その日から90日がすぎて、この本が「新着コーナー」から消える(平成24年11月)

と、いうことで、本来ならば受け入れて3か月ほど経過すれば、消えてしまうはずの“新着資料”が、予約が多くついて複本を買った結果、ほぼ1年間にわたって「新着コーナー」に居座り続ける、という現象が起きてしまいます。
 なんだか、昼食時のラーメン屋に「客待ち」ができてしまうと「行列のできるラーメン屋」ということで話題が話題を呼ぶような状態を連想してしまいますね。同じ本一冊でも、人気がつくことにより周知〜新着資料としての重点的なPR〜期間が長くなってしまうのです(実は、この現象を考察する中でもう一つ、図書館史上重要な事件について「発見」をしてしまったのですが、それは別の機会に…)。

貸出し(専)用のOPAC、bad!

 以上のとおり、OPACが利用者をして特定の資料に誘導せしめる、ということを考えてみました。
 その中で私は、改めて公共図書館が運営する、OPACのあり方に向き合ってみたのですが、“貸出し”を前提とした資料提供を主眼においた『市民の図書館』の信徒たるあまたの図書館員(もちろん、含む自分)にとって、OPACとは、
“多くの図書館資料を知ってもらい、貸出しを増やす”
機械であると考え、その機能に期待していました。悪く言えば「販促機器」。このようなメンタリティでは、「問題解決のため」図書館を利用しようとする方のためにOPACを企画・設置し、同時にそれをサポートするための「図書館利用者教育」に力を入れる、というようなことまで考えが及ぶべくもない。結果としてOPACは、もっぱら新着・人気情報を流すだけの存在として“放置”された観があります。
 このエントリを書きはじめた際、私は内心、
利用者の選択の幅を広げ、問題解決に力を発揮するはずのOPACが、実は選択の幅を狭め「ベストセラー」偏重に大きく貢献したという、図書館史の逆説ともいえる画期的な問題提起!!
をしたということで、内心、自信満々・意気揚々であったのですが…
 結局のところOPACも、“貸出し”を普及する手段として専ら運用されていたということを考えれば、“OPACがもたらした「新刊・ベストセラー偏重」”も、やはり『市民の図書館』の延長線上でのお話だったワケで、我ながら情けない結末となってしまいました。ここで、余分な時間・エネルギーを消費するなら、現在CD売上“超ベストセラー*1”の

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に伴う「選抜総選挙」推しメン誰にするか、迷っていたほうがよほど明るく前向きで楽しかったのになぁ…やれやれ…
「貸出用のOPAC、bad!」

*1:実は、私は2種類ともインターネット書店”から入手したが、ご覧のとおりジャケ写見てから、ビックリした。おそらくリアル店舗では、2点同時に買う「勇気」はなかったであろう! これこそ、インターネットでの「資料選択・収集の自由」であるといえよう!!