「本の(読書)相談」は、なぜ「否定」されたのか

読書案内と強硬な反対論

あまりにも有名なこの本

図書館運動は何を残したか―図書館員の専門性

図書館運動は何を残したか―図書館員の専門性

その中で「読書案内」について、

1970年代の公立図書館では,多くの図書館で貸出を伸ばすことが第一の目標とされてきたため,本の案内(読書案内)やレファレンスサービスなどの専門的なサービスは,もっと職員体制が充実してから行なうものとして,後回しにされた。また,本の案内は貸出業務の中で行なわれなければならないという誤った考え方が広がっていた。したがって,司書が配置されている場合でも,読書案内やレファレンスサービスは十分行なわれてこなかった。この結果,司書の専門的職務は明らかにならなかった。(p23〜24)

私は幸せなことに、この本の著者による「図書館概論」を受講することができました。
この講義の中で、薬袋先生は「本の案内」についての持論を具体的かつ熱く語っておられたのは、いまだに忘れられない出来事です*1
で、この提唱は一部では受け止められ、
手にノコギリを持って重厚長大万里の長城のごときカウンターを分断する
例もあったようですが、全般的には先述の本で薬袋先生自身が

(前略)筆者による読書案内と図書館員の意識改革の問題提起があった。図問研*2は『みんなの図書館』で読書案内の特集を組み,検討のための委員会を設けたが,一部の会員から強硬な反対意見が出された。そのため、組織的な実践の取り組みは行なわれず,結果として図書館界全体における自由な議論,生産的な議論が妨げられた。

と、まとめられているように反対論が旺盛だったようです。
当時図書館界が、いかに硬直的・保守的・保身的で風通しが悪かったかがよくわかります。

「法」も「経典」もあったもんじゃない

ただ、やはりこのような結果には、正直腑に落ちないものを感じます。
ちなみに図書館法第三条第一項第三号には

三 図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち、その利用のための相談に応ずるようにすること。

と、あります。
また、反対しそうな方々が「経典」のごとく崇め奉るところの

市民の図書館

市民の図書館

では、

利用者の図書選択を助け,利用者の要求と課題と図書を結びつける仕事が貸出し業務の重要な一部である。これが読書案内である(p60)

と、位置づけ、その重要性を強調しています。
「法」にも「経典」にも重要と位置づけられた「案内」は、なぜに反対されてしまったのか、実に不思議でなりません。気に入らんならガン無視すればいいだけのハナシなのになぜ「反対」が根強かったのか不思議でしょうがありません(当時の『みんなの図書館』をを読めばはっきりするとは思うが、それは私にとって不愉快な経験になると思うので、あえて追求しない)。

云うだけ司書

ここでは、とりあえずの理由として、
「云うだけ司書」
の存在が大きいのではないか、と仮定しておきます。
私の経験からは、各種団体で「役付き」とか「理論家」とされている方と接する限り、みな一様に失礼ながら

  1. とにかくプライドが高く
  2. その割には、実務経験が案外ない

ように、私には見受けられました。。
このような方々にとっては、失敗は許されない(と、ご自身では考えている)利用者コミュニケーションから距離を置こうとしたのではないでしょうか。
あるいは、皮肉なことをいえば「理論偏重」で「アタマでっかち」となり、日常の実践と理論とを結び付けようとはしないだけでなく、「専門性を高める活動」に打ち込む中で肝心のご自身の「専門性」が希薄になってしまったともいえます。
考えてみれば、日図協にしろ問題研究会にしろ、ギルド=同業者組合としての性格が強かったように思えます。これも「云うだけ司書」の「功績」でしょう。

ギルドとしての「図書館問題研究会」が恐れた「下克上」

ギルドといえば、かつて
図問研あらずんば司書にあらず」
という印象がありました。
私自身、図問研に属したのは最後の2〜3年にすぎませんでしたが、日本図書館協会(これは16年間在籍した)の地方組織は実態が図問研によって運営されていました。
日本図書館協会個人会員のつどい」が何回か行なわれたように聞いていますが、個人会員である私のところには14年間まったく音沙汰ありませんでした。
ギルドとは封建制の産物とされていますから、「民主化」とは無縁のことと肝に銘じておきます。
そのギルドたる図問研。その「親方」にあたる頭脳明晰な司書先輩方にとっても、「本の(読書)案内」で親方作品=masterpieceは生まれなかったということです。
ただし、前回エントリをご覧いただいた方々にとってはお分かりでしょうが、「本の(読書)案内」なるものは、
“ほんの一握りの勇気と問題意識”
があれば、たちまち上達するものです。
そのような“若者@匪図問研”が、メキメキ伸ばせば“ギルドの親方@図書館問題研究会”
にとって“脅威”であり“下克上”となっても不思議はないでしょう。ギルド制に“楽市楽座”など敵のようなものです。

とりあえずのまとめ

先ほど
図書館界は風通しが悪かった」
と書きましたが、公立図書館ならではの

  • 官僚制
  • ことなかれ主義
  • 職階制

に、わが国で顕著な

が加わる一方、横断的な組織としての

  • 図書館問題研究会のムラ的性格(もはや「ギルド」とも呼べない、とるにたりない集団)

が、複合した結果ではないのか、と思えます。

蛇足

とりあえず、経済学の徒としては、より社会科学的にこのあたりを追求しなければならないと思いました。
が、同時に(同じく)経済学徒としてのもうひとりの自分が、
「そんな、なんの儲けにもならんことせんほうがええ」
とささやいているのです…

*1:ちなみに、薬袋先生の講義を受けた方ならご存知であろうが、先生は講義に臨んで常に実に整然かつ秩序あるレジュメを用意した。それが“生理的に好かん”と言ってた知り合いは、某研究会でまったくもってオモシロおかしくない文章を書きまくっている。

*2:無責任男注:「図書館問題研究会」の略称