図書館ワーキングプア〜quasi-marketと指定管理者をめぐって〜

休止まで2週間を切りました。
このブログをはじめて以来、ずっと考えてきたことは「図書館ワーキングプア」についてです。
やるせなさ、切なさ、無力感と罪悪感…様々な思いがよぎります。
いままで非常勤職員〜官製ワーキングプア〜について考えてきましたが、今回は「指定管理者・民間委託」における問題を考えてみたいと思います。

「市場」としての図書館

日本は図書館法により、公立図書館は地方公共団体のみが設立できる(ただし類似施設は何人も設置することを拒まない)ものであるから、住民はみずからの在住・在勤・通学する地方自治体の図書館を利用するのが一般です(むろん、広域利用など近隣自治体の図書館を利用することもある)。ごくまれなケース(当該市町村内に県立図書館等が設置されているような場合)を除き、一つの自治体に運営主体を異にする公立図書館が並存するようなことはありません。ですから、市民の多くは自らの意思で公立図書館を自由に選ぶことはほとんどないといえます。
一方、サービスの対価としては、図書館法第17条で「無料の原則」があることから、公平性・平等性を保たれている反面、「価格競争」が生じることもありません。。
このように、競争相手が“不在に等しい”状態であること、市場競争のもっとも大きなファクターである価格競争がないことを考えてみると、日本の公立図書館は、市場メカニズムが働きにくい環境にあるといえるでしょう。
そのような、競争原理が働かない図書館界に“競争原理”を持ち込もうとして(一応タテマエとしては、ホンネは別か?)、指定管理者制度等がもちこまれたワケですから事情がフクザツになります。

quasi-marketと図書館

ここでは、ロンドン大学ジュリアン・ルグラン教授による、「quasi-market(日本語では「準市場」と訳される場合が多い)」のモデルになぞらえて考えて見ましょう。この考え方としては、従来の公共サービスを、

  • Queen(女王)=サービスの提供者
  • Pawn(チェスの歩)=サービスの利用者

という関係に、

  • knight(騎士)=利他的役割者
  • knave(ならず者)=利己的役割者

を追加して、相互の関連・関係から市場原理で競争させようとしたものです(かなり雑駁な説明だ)。

knight(騎士)か、knave(ならず者)か、それが問題だけど…

さて、公共図書館は前述のとおり、「競争」がそもそも難しいのです。そもそも競争の結果を評価として見極めることが難しいのですね。
指定管理者は、図書館司書を、地方公務員のような特殊な任命関係から脱却し、雇用市場から自由に調達することができるようになったものの、主力「商品」たる図書は再販制度により価格が事実上決まっている場合が多いため、調達の「競争」に制限をかけられているといえます。
まず、Pawn=図書館サービスを受ける側(利用者・市民)には図書及び図書館についての「専門的知識」がなく(当たり前だ)、サービスへの評価は数量的・外形的なもの(開館時間、開館日数、施設の清潔・職員の接遇など)にとらわれやすい傾向にあります。
加えて、図書館マニア・研究者・関係者などのごく一部を除いて、他の自治体が設営する公立図書館に足を向ける機会は少ないから、比較検討なり目安のようなものがないから、knight(騎士)なのかknave(ならず者)なのか、まったくわからない。
他方、Queen(女王)=サービスの提供者(地方公共団体)にとっても、事情は同じようなもので、直営職場では“日本図書館協会主催の「貸出し競争」に汗を流すだけ”の存在に過ぎないから、やはり数量的・外形的な評価にとどまる傾向にあります。
このような理由から、本来knight(騎士)を佩用させるべきところをknave(ならず者)にしてしまったり、あるいはその逆(コチラが多数派か?)パターンもあり。
さらにはS県T市のように、Queen(女王)たるものがknave(ならず者)になってしまっていて、類は類をよぶじゃないけど、knave(ならず者)にknight(騎士)の称号を与えてしまう場合もあるから、まったくワケがわからない状態。

指定管理者ワーキングプアはかくして生まれる

で、knave(ならず者)ともknight(騎士)ともつかない指定管理者。指定管理者にとっては、Queen(女王)から「仕事」をもらえるか、ということが「競争」であり、それがゆえに利己的なknave(ならず者)の立場をとらざるをえません。
図書館司書を、地方公務員のような特殊な任命関係から脱却し、雇用市場から自由に調達することができるようになったものの、主力「商品」たる図書は再販制度により価格が事実上決まっている場合が多いため、調達の「競争」に制限をかけられているといえます。
結果として、たいていの場合では「価格競争」でQueen(女王)から称号を得るしかないし、Queen(女王)も財政難でそれをお望みであらせられるご様子。
ただし、「価格競争」に突入したとしても、人件費比率が高いうえほかに「競争=価格を下げる企業努力」の余地がないとなれば、人件費を削るしかない、ということで「ワーキングプア」は生まれてしまいます。
もっとも、以前のエントリ

・平成図書館行政史? 〜指定管理者図書館はかくして生まれたり〜
 http://d.hatena.ne.jp/hatekupo/20120916/1347773992

に書いたとおり、指定管理者は「競争」という美名のもと小泉政権新自由主義がうみだしたアウトソーシングですね。

以前からワケわからないコト*1で、誹謗中傷するコメントをされる非常勤の方がいます。
私のブログを「攻撃」してなにが面白いのかわかりませんが*2、ここは私の統べるブログですので、内容によっては即刻「承認待ち」にいたしますので、前もってご了承ください。

*1:コメント返しで訊いたら、ガン無視された

*2:まぁ、ニーチェのいう「ルサンチマン」でしょう