なんでも入札=価格競争の愚が技術立国ニッポンを揺るがす〜図書館コンピュータシステムの現状から

岡崎市での図書館システムの問題が話題になっております。
この問題そのものについては、「図書館退屈男」様のまとめが、個人的に気に入りましたので、それをトラバさせていただきます。

OPACをクローリングしたら逮捕されるこの国で/図書館退屈男(2010-8-23)
http://toshokan.weblogs.jp/blog/2010/08/opac_goes_public_infrastructure.html

で、ここからは下世話な体験談。
図書館人が3人以上集まると、すぐにグチの云いあいが始まります。
ネタとして、もっとも多いのが、“親子のマナー@図書館”“勤務館でのセコい労働強化”が多いのですが、
“図書館コンピュータシステムへの不満”
もトップスリーにランキングされるでしょう。
その中身はといえば、やれ

  1. 経費(リース料・ライセンス料)がとにかく高い
  2. 使い勝手が悪い
  3. アフターサービスが悪い

etc…
ベンダーさんたちの評判は著しいものではありません。
ただ、黙ってやりとりを聴いておりますと、少々的外れの意見も少なくないようで、民間MARC購入費用や資料装備委託まで混ぜ込んで「高額」を嘆いたりするなどの例もありました。
ただし、私のような一市民・一利用者にとっても、現行のシステムには不満だらけです。
「図書館の自由」に抵触する虞のある「リコメンド」はともかく、「Did you mean?」などの検索アシスト機能も欲しいし、ファセット表示なんて、かつて米国フェニックス市の公共図書館のような便利なものが、なぜ日本ではできないのか、嘆きたくもなります。

が、一方で司書の不勉強、特に「仕様書」ひとつマトモに書けない司書も多く、事務方や電算屋に丸投げしてしまう例もあるとかないとか。

まぁ、これからの司書のみなさんは「IT」に詳しいということが一つの前提条件となりましょうし、それも@arg氏をはじめ多くの方々が指摘しているところです。
私は「これからの司書」さんでシステム開発・管理・運用にたずさわる方は、契約事務そのものについても、ある程度勉強してほしいと思います。
選定から予算の確保、契約の締結から施工、検品にいたるまできちんとした手順を踏むことは楽ではありません。
この中で「選定」について、事務方のいいなりになったり、とりあえずの「楽」や、波風立てぬようにと、安易に「価格競争=競争入札」で決めてしまう館もあるのです。
「価格競争=競争入札」は経費節減、公明・透明性の確保の観点で長所があることも事実です。
ただし、図書館システムのパッケージソフトは「知的生産物」であります。
選定に携わる司書の方々、ある主題の図書を選定しようとするとき
「とにかく値段の安いものが一番だよね」
という考え方で決めますか?
私は、ベンダーやSEの方々が可哀そうに思えることがあります。

  • 新機軸を導入しようとして、「経費面」でボツにされた設計者
  • 安く安くということで、冗長性のないシステムを導入し、機能停止が多くて叱られるSE

等々がおられることも、想像に難くありません。
何よりも、ベンダーさんは収益で開発をしています。
ベンダーに払う経費が高い、とはいっても、OSのアップデートに対する対応など日々維持するだけで手いっぱいの場合もありましょう。新技術を導入しようとしても開発には多額の開発費が必要になりますが、いったいどこから捻出するのか?
ベンダーに暴利はゆるされませんが、新技術のための開発費、技術者の維持には高額の費用がかかるということを知る必要があります。
また、多額のお金をかけたすぐれた製品には、採用という形で評価され、図書館従事者・利用者にとって便利なものになるという流れは当然必要です。

ところで、入札といえば「公共工事」が代表的と言えます。が、ここでは「価格競争=競争入札」の欠点がすでに指摘されています。
公共工事の競争=入札は、談合や低価格入札(ダンピングの一種)などの問題が発生することがあります。このため、技術力の劣る工事会社が選定される可能性がありますし、「手抜き工事」の可能性が高くなるのです
また、工事の「商品」は現場作業物であり、普通の小売商品等と違って施工条件(生産条件)、施工位置、施工時期、施工者の技術力等により品質が異なることが避けられず、完成して初めてその品質が判明するという特徴があります。これらの「特徴」は図書館コンピュータシステムと類似しています。

このため「公共工事の品質確保の促進に関する法律(平成十七年三月三十一日法律第十八号)」という法律が制定されました。
この法律は「基本理念」として次のようにあげています。少し長いですが引用しておきます。

(基本理念)
第三条
 公共工事の品質は、公共工事が現在及び将来における国民生活及び経済活動の基盤となる社会資本を整備するものとして社会経済上重要な意義を有することにかんがみ、国及び地方公共団体並びに公共工事の発注者及び受注者がそれぞれの役割を果たすことにより、現在及び将来の国民のために確保されなければならない。
2 公共工事の品質は、建設工事が、目的物が使用されて初めてその品質を確認できること、その品質が受注者の技術的能力に負うところが大きいこと、個別の工事により条件が異なること等の特性を有することにかんがみ、経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要素をも考慮し、価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることにより、確保されなければならない。
3 公共工事の品質は、これを確保する上で工事の効率性、安全性、環境への影響等が重要な意義を有することにかんがみ、より適切な技術又は工夫により、確保されなければならない。
4 公共工事の品質確保に当たっては、入札及び契約の過程並びに契約の内容の透明性並びに競争の公正性が確保されること、談合、入札談合等関与行為その他の不正行為の排除が徹底されること並びに適正な施工が確保されることにより、受注者としての適格性を有しない建設業者が排除されること等の入札及び契約の適正化が図られるように配慮されなければならない。
5 公共工事の品質確保に当たっては、民間事業者の能力が適切に評価され、並びに入札及び契約に適切に反映されること、民間事業者の積極的な技術提案(競争に付された公共工事に関する技術又は工夫についての提案をいう。以下同じ。)及び創意工夫が活用されること等により民間事業者の能力が活用されるように配慮されなければならない。
6 公共工事の品質確保に当たっては、公共工事における請負契約の当事者が各々の対等な立場における合意に基づいて公正な契約を締結し、信義に従って誠実にこれを履行するように配慮されなければならない。
7 公共工事の品質確保に当たっては、公共工事に関する調査及び設計の品質が公共工事の品質確保を図る上で重要な役割を果たすものであることにかんがみ、前各項の趣旨を踏まえ、公共工事に関する調査及び設計の品質が確保されるようにしなければならない。

私が特に重視するのは、もちろん第三条第五項です
5 公共工事の品質確保に当たっては、民間事業者の能力が適切に評価され、並びに入札及び契約に適切に反映されること民間事業者の積極的な技術提案(競争に付された公共工事に関する技術又は工夫についての提案をいう。以下同じ。)及び創意工夫が活用されること等により民間事業者の能力が活用されるように配慮されなければならない。

私は公共工事と同様に「役務の提供」をはじめとした委託契約においても同様の趣旨で法律が制定されることを切望します。ベンダー各社の積極的な技術提案及び創意工夫が活用されること等により、ベンダー相互の「健全な技術競争」により、図書館コンピュータシステムの“底上げ”“技術向上”が図れると思われるからです。

ただし、その場合でも、肝心の司書が「ITぎらい」ばかりでは意味をなしません。
いま、働いている司書のなかで、これらを「評価」できる司書がいったいどれだけいるのでしょうか。私はあまり期待できないと思います。

再び、図書館退屈男様のブログをご覧ください。

・Code4Lib JAPANへの誘い - デジタル情報の最前線に立つ覚悟はあるか/図書館退屈男(2010-8-27)
 http://toshokan.weblogs.jp/blog/2010/08/in_the_frontline_of_the_internet.html

「文系だから」
「苦手だから」
「ITは専門家にやらせておけばいい」
そう、お考えの司書は、まずは反省すべき。従来司書の仕事とされた、収集・保存・整理のあらゆる場面でコンピュータの力を借りているのが現状。その現状と正対できずにこれからも司書をお続けになるおつもりですか?