「温泉観光協会立図書館」の発想

皆様、新年おめどとうございます。
さて、年がら年中“おめでたい”のが私でありますが、id:arg氏のメルマガを拝見し、

・観光と図書館に関する勉強会を始めます(2011-01-02)
 http://www.arg.ne.jp/node/6869

を拝見して、思いついたのが今回の提案なのです。
ただし、“観光と図書館に関する勉強”には一見カブっているようですが、実はかなりはずれています。

温泉と湯治

まぁ、今日では「温泉」といえば、観光・レジャー・遊興とセットで語られます。
ただし、本来わが国では、その効能から、温泉に入浴したり飲泉したりして、特定の疾病・疾患の治療・緩和に用いられてきました。
たとえば、南紀白浜温泉は、有馬皇子が心の病を治し、これをきいた斉明天皇も足を運んだことが『日本書紀』に記されています。
亡き私の祖母は、温泉に対して“信仰”にも近い感情を抱いてましたから、リウマチ・神経痛の治療にと、結構温泉に行き、最低でも一週間は“湯治”に行ったものです。
私も、小学生のころは、夏休みなど、一緒に連れて行ってもらったものです。

「最高の読書環境」の「最低の読書事情」

私と祖母がいったさる温泉(国民保養温泉地第一号に指定された温泉。ヒマがあったら、調べられよ…)の奥まった宿(“鄙びた”と書きたいところだが、実際に書いたら女将に悪いので書かないでおく)のことです。
湯治と言えば、長期間滞在するのが当たり前です。同時に、湯治客そのものが、ある程度の“安静”が必要であるうえ、これといった遊興とは無縁でありますから、「読書」をするにはもってこい、というより本でも読まなきゃやってらんねぇよ、ともいうべき環境です。
しかしながら、そのような奥まった秘湯こそ最高の読書環境ではありますが、皮肉にも「本」をGETするのがままならないのが実情です。もし、まともな「本」を読みたいと思ったら、片道40分以上、運賃1000円弱のバスでふもとの町まで行く必要があります(ちなみに、その温泉21世紀にもかかわらずコンビニエンスストアが一つもないことでも有名)。図書館は今から10年前に“郡立図書館(これもめずらしい!)”がオープンする前は空白でしたし、やはり、「マチナカ」にある以上、片道40分以上運賃1000円弱のバスに乗るということは条件は変わらないのです。

女将と顧客が、いつのまにか文庫をつくる

10年前に、祖母を懐かしみ、その湯治宿に行ってみました。あまりにも変わらないたたずまいにタイムスリップしたような感覚を覚えたものです。露天風呂に入って自然を満喫していたら、川の反対側をブタが歩いているのを発見。さては、村おこしにブタの放し飼いをはじめたのかと主人に問えば、
「あれはブタじゃありません。放し飼いもしてません。あれが自然の猪というものです。」
と、解説され、ランバ・ラルの部下のようにうろたえました。
さて、それ以来、すっかり「自然」と「静寂」に魅せられ、この3年間は行ってませんが、しばらくは、毎年私も「三日湯治」に通ったものです。
幸いにして、私には「クルマ」という武器がありましたから、本をたっぷりトランクに積み込み、通ったものです。
さて、10年前の最初の再訪時、2階のサロン風ロビーには、書架があり、ずいぶん本が置いてありました。
張り紙があって、
「ご自由に自分の部屋で読んでください」
とのこと。
訊けば、先代の女将が無類の読書の方で、個人で買いあさり読み終えた本を湯治客の慰めにと、提供しているということです。
やはり、と言うべきか、いかにも女将のような方が好むような宮尾登美子さんや平岩弓枝さんなどの小説が多いのですが、中にはボストンバックに入れて持ち帰りオークションにかければそれなりの価格がつくような本もあれば、地元の「町史」も味わい深く、なかなか味わい深いものがありました。
数回、足を運ぶたびに気がついたのですが、その後、本がどんどん増えていったことです。
湯治客が読み終わった本を、置いていくらしいのです。そういえば、かくいう私も女将さんの好みそうな新刊をチップがわりに手土産として持参したこともありました。
考えてみれば、黄色い看板の新古書店からも隔絶された場所です。そんなわけで、読み終わった本を置いていく方が多いのも道理でしょう。
書架も増え、自分が最後にお邪魔した時は1000冊以上にはなったでしょう。

温泉協会立図書館! 旅の本は読み捨て!!

本と書架が増えること自体は喜ぶべきことです。顧客がほかのお客のために、自分が読んだ本を置いていく、という行為もすばらしいと思います。
しかし、その旅館の建築構造などを考えると、私には一抹な不安を感じえません。もちろん物理的に…
そんなところで、ここはひとつ湯治場図書館なるものを提案しておきます。
温泉街、一番不況の波を受けているのは、土産物屋・飲食店です。
むかしとちがって、いまは土産物はほとんど宿泊施設に売店がおかれるようになりましたし、“日帰り昼食つきプラン”の提供もあって飲食店も客足伸びず、案外「空き店舗」が目立つようになりました。
私の提案は、温泉協会がこのような場に「文庫」を設け、“持ちより、読み捨て”の精神で図書館もどきをつくるということです。
なにも、図書館法にしばられる必要はありません。
「読書の楽しみ」
だけに特化してしまえばいいのです。
でも、「理想の形」を考えれば、温泉街に「公立図書館」を設け、地方自治法244条の2第8項の規定を適用し、温泉協会などを指定管理者にしてしまえばいいのです。
ついでにコーヒー(コーヒーと本の相性は抜群と考えるのは、私だけではありますまい)やペプシNEXT、抹茶などと温泉まんじゅうを適正価格で提供すれば、楽しいし、どうせなら、「足湯」まで引いてしまえば面白い…

私の「初夢」はこれでおしまいであります