“地方自治の本旨”の実現こそが公立図書館の使命である

さる10日、衆院予算委員会で、菅首相中国漁船衝突事件への政府の対応について、
「100点満点とは言わないが、冷静に対処したということで、歴史に堪える対応を現在もしていると思っている」
と述べたそうです。
俗に
“歴史は夜つくられる”
などといいますが、今日の出来事は明日になれば“歴史”となるわけですから、いいえて妙です。
逆説的にいえば、正しく今日を見定めた者の記憶が、“正史”となるわけですが、“完璧なる客観”というのもまたありえないですから、常に「複数眼」が必要になるのですが、とにかく
「今日を正しく知り(把握し)記録することが歴史のため」
であり、そのためにも「知る権利」は大切なことですが…

政府刊行物都道府県立図書館への無償かつ確実な提供を求めることについて(日本図書館協会2009-7-2)
 http://www.jla.or.jp/kenkai/20090702.html

このような主張は、まことにごもっともなことです。
が、今の時代にこの主張(要請)で足りるとは思えません。

・冊子体からウェブ版に移行した資料の一覧(国立国会図書館
 http://warp.ndl.go.jp/info_digimaga/igodenshi1.html

にもあるように、近年冊子体からウェブ版に移行する資料が多くあります。
その多くが、行政資料です(地方自治体等行政機関の発行する統計書・年鑑・年次報告書の類は、逐次刊行物として扱われるものが多い)。
上記のとおり国立国会図書館が掲げたものは、氷山の一角、というよりも、南極越冬隊員が持ち帰った「氷山の一角」のそのまた一片をもらった男がオールドパーを満たしたグラスに入れている氷一欠けらにすぎないように思います。
近年、一般に公表等を行うことを目的として作成した行政情報については、冊子体によらず、Webでの公開が主流となっています。そして、地方自治体レベルになると、特に顕著です。
理由としては、

  • 経費(印刷製本費)削減
  • 速達性(より早く公開できる)
  • インターネットの普及とワールドワイド化

などがあります。特に、3番目の“ワールドワイド”とは大げさに過ぎますが、北海道の住民が沖縄の情報に接近できるのは、たしかに便利だと思います。

で、さて「図書館」のハナシですが、従来このような行政機関が出していた頒布物・逐次刊行物は、「冊子体」として入手できなくなりました。
たいていの自治体では、“「情報公開条例」の適用除外行政資料”として、“図書館等において市民の利用に供することを目的として収集、整理又は保存している図書等については、適用しない”ことが一般でありました。
このような流れでは、市民の知る権利の確保をもって、地方自治の本旨の実現に奉仕してきた「図書館」の存在が小さくなってしまいます。

デジタルデバイド情報格差”を理由にWeb上でのサービスを軽視してきた公共図書館の重鎮の方々には、ぜひみずからのこれまでの主張の趣旨にそい、前向きに善処していただけることと、おおいに期待いたしますが、問題はそれだけではありません。

行政は、常に“最新の情報”を提供することに努めており、それは大変結構なことであるけれども、「保存」ということには関心を払わないのが普通です。
これは、ある意味“図書館の功績”でもあるわけです。図書館がきちんと保存していくことを理由に、安心して行政機関は型落ちの資料を“廃棄”できたのですから…

ところで、南国土佐では、県立図書館と市立図書館との合築が話題になったおります。ここでは、賛否について言及はいたしませんが、コトのなりゆき上、都道府県立図書館の存在意義が問われることでしょう。
従来型の来館サービスのみにこだわってきた都道府県立図書館ですが、ここらで「収集・保存」という“図書館の原点”にたちかえり、地域情報、わけても、行政情報等のアーカイブ化を図る、これが“生き残りの道”であり“王道”でもあると思います。

ところで、ARGのメルマガ

・452号(2010-11-08)
 http://d.hatena.ne.jp/arg/20101108/1289193600

に紹介されてましたが、今度の図書館総合展(第12回)では、

高山正也・国立公文書館館長によるフォーラム
公共図書館への公文書管理法の影響:地域住民への情報サービスにおける公文書の価値」

も行われるようです。
行政の行うべきサービスを図書館活動に組み入れれば、行政・図書館とも“win-win”の関係が成立します。そして、それは住民のためでもあることは言うまでもないことでしょう。