地域と公共図書館、四万温泉から考えた

読書を楽しめない司書

自分にとって“今は昔”のハナシですが、かつて「司書」の職に在ったころ、私は日常生活において“読書を楽しむ習慣”をもちあわせておりませんでした。
いわゆる、
紺屋の白袴
かといえば、チョイと違う。商業的倫理のようなご立派なものではありません。
お恥ずかしいことですが、本を読み進めるうちに

  • 自分ならNDCのドコに分類するか?
  • どのような「件名」を付与するのが「賢明」か、“一書件名*1”に考える。
  • どのような年代・趣向の者に提供するのが望ましいか*2

などなど、あれこれ考えてしまう日常なので、まったくもって「純粋に」本を読む楽しみが損なわれるわけです。

読書と温泉

しかしながら、本を

  • こころゆくまでに、
  • しがらみなく
  • 私的な趣味として

楽しむためには、もはや
“日常生活からの脱却”
しかありえません。
そこで愛用していたのが、

群馬県四万温泉の最奥の隠れ旅館、渓流と森の宿 中生館
 http://www.chuseikan.jp/

でした。
このブログでも以前紹介したことあり。

・「温泉観光協会立図書館」の発想
 http://d.hatena.ne.jp/hatekupo/20110106/1294316181

今回、久しぶりに「再訪」しました。

温泉旅館の底力

客室の窓からこのような景色が見渡せます。

景色もさることながら、この「川の音」が心地よいBGM。癒されます。
件の「文庫」は健在でありました。

このような

手書きの「告知」も懐かしいし、

郷土史・温泉資料など結構憎いところをついています。
そのほか、ロビー付近には

新聞、フリーペーパー、パンフ類が豊富にあります。
これに先ほどの書架を合わせると、奉仕人口(つまりは、滞在する顧客のこと)あたりの情報力は十分かと思います。

本が減ったのか?

とはいえ、書架の本もだいぶ少なくなったように思えます。
この“文庫”を築いた先代の女将さんですが、昨年10月にお亡くなりになったとのこと…
私としても残念でした。
合掌。
さて、残った本は

  • 古い本
  • ノベルズ

が多かったようです。
全部「点検」したワケではありませんが、21世紀に入ってから出版された本はほとんど無い様に思えました。
平成13〜20年ごろに「手土産」として持参した、私の「寄贈本*3」もありませんでした。
下種の勘繰りめいたことは云いたくありませんが、
そのせいなのでしょうか。勘ぐりめいたことは書きたくありませんが、

  • 個人の形見分けに持ち帰ってもらった
  • 新古書店の出張買い取りを呼び、「拒否」された本だけが残った
  • 公立図書館に寄付をして、同じく引き取りを「拒否」された本が残った

ということなのかもしれません。

公共図書館と温泉

質量ともに減じたとはいえ、「文庫」のもつ力に変わりはありません。
ただし、この蔵書はと言えば、近所に公共図書館がなかったため、仕方なしに購入したものです。
その後、「郡立図書館」がオープンすると、購入もしなくなります。
ただし、「郡立図書館」はといえば、人里離れた温泉からは遠く、おいそれと訪ねるワケにもいかないですから、旅館の「文庫」はやはりありがたいことなのでしょう。
このあたり、
住民(旅館経営者)と観光客に図書館を組み込む
発想が必要かもしれません。
その点で“草津町立図書館”の場合は、一つの理想といえるでしょう。しかし、かの館の最大のウイークポイントは
「Web-OPACをもたない」
ということですが…

*1:本当は「一所懸命」なのであるが、理由は後のエントリに書く

*2:貸出数のばしを目指す「貸出至上主義者」は、セールストークネタを始終考える

*3:女将へのプレゼントとして差し上げたわけであって、「文庫」への寄贈ではなかったから、当然この表現は当たらない