【ステタ市は】図問研イマドキ情報【ステちゃえば】

図書館問題研究会の機関誌「みんなの図書館」については先月、悪戦苦闘したものの徒労に終わったことがありました。

・『みんなの図書館』2月号を“読破”してみようとする
 http://d.hatena.ne.jp/hatekupo/20100124/1264338003

で、今月、3月号

・みんなの図書館2010年3月号が出ました
 http://tomonken-weekly.seesaa.net/article/140736957.html

はといえば、今回はあまりにも単純・空虚で実にわかりやすい。そのため、読んだ後はさながら真空地帯で血液が沸騰するかのような感覚にとらわれました。
なお、この件についてはid:wackunnpapa先生により

分断統治を肯定しているのは誰か?
 http://jurosodoh.cocolog-nifty.com/memorandum/2010/02/post-eea7.html

ご講義いただきましたので、小生としては
「シナリオ「図書館委託したらどうなるの?」―笑いを取りつつ、委託の本質を見事にとらえています! 」(真木美紗緒執筆)
実務者の観点で眺めてみたいと思います。

あらすじと概説

1.ステタ図書館カウンター
舞台となるステタ市立ステタ図書館のカウンター風景

よくあるパターン“ビフォー・アフター”の“ビフォー”に相当する場面

2〜4.ステタ図書館カウンター
民間委託化後のカウンター業務の様子。混乱の様子が解説を交えて語られる

こちらが“アフター”にあたる場面。指示・命令・指導は委託会社をとおしておこなわれるため、現場が混乱している様子を表現し、委託によるサービス低下を訴えたいようです。
残念ですが、この事例は仕様書の記述を誤ったために起こった混乱であり、委託制度そのものの欠陥とはなりえません。
ステタ市は他にも業務委託をしていないんでしょうか? たとえば、清掃業務では受託者のスタッフに
「あの〜、大会議室本日午後会議ありますんで、午前中に(清掃を)仕上げてもらえますか〜」
ということも頼めなくなりますね…
反対運動だけに夢中になり、契約事務を勉強してこなかったツケは結局利用者にまわってくるんですね。この例を反面教師として肝に銘じておきます。

5.図書館選書会議
カウンター業務を委託した結果、市民のニーズがつかめなくなったと嘆く職員たち〜

市民のニーズだけでウケ線ねらいの本を選ぶという、貸出至上主義者の安易な選定会議ぶりが明るみに出た場面。
資料自体の価値判断もなければ、選書方針に基づく評価もなにもない。
唯一賛同できるのが、登場人物(職員)の最後のセリフ
「もうやめたいわ〜。」
そうです。ぜひやめてください。それが世のため利用者のためというものですw

6.ステタ図書館カウンター
入職・退職続出で入れ替わりが激しい委託スタッフの様子

いわゆるワーキングプアとかで、過酷な労働実態・低い賃金を訴えたいのか。
この場面のセリフはなぜか正直。
「なんだか人間関係がギスギスして…」
そりゃそーでしょう。こんな無能な正規職員が比べるもおろかなほどの収入・好待遇を受けておるんじゃあ、バカバカしくてやってられんでしょうなぁ…

7.くらい部屋
市の幹部と受託会社“ORC”“丸悪”らしい「黒幕」同士の会話

id:wackunnpapa先生をはじめ、良識ある図書館職員がもっとも眉をひそめる場面がこちら。
この台本の執筆者は、このような会話によって民間委託が進められているとマジで考えているんだろうか?
どうやら執筆者は新自由主義ということばもしらなければ行政改革推進法第五十五条*1も御存知ないらしいようです。
黒幕の会話、最初のやりとりを抜粋しておきます。
黒幕1「これでええんや。図書館はどんどん建てて、どんどん委託して、どんどん職員を減らすンや。司書はもうやとわんでええ。そのうち、退職して消えていくのを待ったらええし、文句を言ったら、図書館からとばしったたらええんや…」
黒幕2「そうです、図書館は、どんどん建てて、単純な市民の方に喜んでもらいましょう。…」
“黒幕”というわりに、黒幕1さん、理解があると思うんですがね…
それに対して、執筆者の方は黒幕2を通じて“単純な市民”とよばわっております。吹田じゃないステタ市民をこれほど侮辱していいんでしょうか? もう、なにもコメントできません。

8.20年後
フィナーレ。20年後のステタ市図書館。正規職員司書最後の一人の回想をもって20年の経過が語られる

まぁ、委託したらヒドくなりましたといいたいワケ。
が、無視できないのがこのセリフ
「「図書館無料の原則」も「図書館法」が改正されたので、今では、お金に余裕ある人だけが利用できるんです。入館料を払えない人は、図書館に来ても、中に入れません。」
このセリフには次の2点で驚かされます。
一つは、民間委託のヒドさを訴えるのに、異なる争点の「if〜図書館法改正」を持ち出してくるというこじつけのひどさ。
二つ目は、図書館法改正〜図書館無料の原則の見直し議論を、「入館料徴収」にすぐリンクさせてしまう図問研の安直さ。超ウケるンですケド…

改めて見直してみると…

最後の場面で図書館法改正まで持ち出すこと自体、噴飯物でありますが、その他の場面、カウンターでのドタバタについては、ある意味もっともだし、部分委託の問題点を出しているように感じられました。うん、やはりステタ市は部分委託よりも指定管理者に丸投げしちゃったほうがイイようです。

余興とはいえ

宴会芸がいいとこのこの寸劇にしても、黒幕云々の描写はヒドすぎですね。しかも「ORC(=TRC?)」「丸悪(=丸善?)」といった現実に存在する会社を想起させるような設定はどんなものかと。id:wackunnpapa先生も言及されてましたが、現実にTRCや丸善に勤めていらっしゃる方々がこの寸劇見たとき、どう思うかステタ(=吹田)の方、考えたことアル?
特にMARCでTRCを利用しているんだとしたら、さっそく謝罪に行くか、あるいはTRCの力(MARC供給など)を一切使わずにやるべきです。装備も目録もみんな自分でやる。あ、MARCのことならNDLのJAPAN/MARCがあれば全然OKですね。 「我国を代表する書誌データの一元化」の観点でも民間排撃主義者はJAPAN/MARCだけ使いましょう。

悪いのは紹介者と編集部

内輪でやっている宴会芸ならいざしらず、「みんなの図書館」という(いやしくも)巷に流通する図書として怪電波を撒き散らすのは、やはり感心できません。というよりも、はっきりいって同業者として恥ずかしく思います。
が、私も民営化の割りを食ったはしくれ。ステタ(=吹田)市の図書館員のショックというものは想像するに余りあります。また、内容はメチャクチャとはいえ、寸劇という表現形式でアピールするユニークさにも少々シンパシーを感じたりもします*2
やはり最大の責任は『みんなの図書館』編集部にあると思います。特に図問研関西の大御所ともあろう方がこの寸劇をなんの疑問もなく受け入れたうえに「リアルで説得力があります」「大いに普及させたい」とまで持ち上げ、それをまた編集部が無批判にまんま躊躇なく掲載してしまうことには恐怖すら感じました。

*1:簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律(=行政改革推進法)第五十五条では、“地方公務員の職員数の純減”として、“政府は、平成二十二年四月一日におけるすべての地方公共団体を通じた地方公務員の総数が平成十七年四月一日における当該数からその千分の四十六に相当する数以上の純減をさせたものとなるよう、地方公共団体に対し、職員数の厳格な管理を要請するとともに、必要な助言その他の協力を行うものとする。”とある。すなわち地方公共団体は4.6%職員を削減しないと、当然地方交付税の圧縮等、制裁が加えれれる。今日、民間委託や指定管理者制度が多用されるのは、経費面よりもなんとか職員数を削減したいという地方公共団体の苦しい事情によるもの

*2:甘いな>自分