CCCと武雄市図書館の提携を前向きに考えると、どうやら最強の貸出至上図書館ができそうだ。

図書館関係ブロガーのみなさんには先刻承知のとおり、CCCと武雄市図書館の提携が話題になっています。

・【TSUTAYA図書館問題】Facebook市長がセキュリティ専門家に「公開討論を」「お背中流しまーす」と誘うも断られ「卑怯だ」経産省や国会議員経由で圧力におわす - ガジェット通信
 http://getnews.jp/archives/208412

市長さんのキャラばかりが目立っていますが、大切なことはこの提携が市民にとってハッピーかどうか、ということです。
そこで検証してみることにしました。
ニュースリリース

武雄市カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の武雄市立図書館の企画・運営に関する提携基本合意について
 http://www.ccc.co.jp/company/news/2012/20120504_003337.html

には、次のとおり「市民価値」をあげています。

提携により武雄市図書館にて実現する9つの市民価値
1. 20 万冊の知に出会える場所
2. 雑誌販売の導入
3. 映画・音楽の充実
4. 文具販売の導入
5. 電子端末を活用した検索サービス
6. カフェ・ダイニングの導入
7. 「代官山 蔦屋書店」のノウハウを活用した品揃えやサービスの導入
8. Tカード、Tポイントの導入
9. 365 日、朝9 時〜夜9 時までの開館時間

それでは、検証してみましょう。

1. 20 万冊の知に出会える場所

これはいわば「蔵書資料提供機能」ですね。さほど目新しいものではない。ってか、単なるキャッチコピーではないでしょうか?

2. 雑誌販売の導入

図書館員の中には賛否両論あるでしょうが、地方自治体が財政難であることを考えれば、このような「副業」をやって運営資金を捻出するのは、なかなか悪くない視点だと思います。気になるのは、記者会見では“雑誌は痛むので貸出はおこなわない”旨書かれていたことです。

3. 映画・音楽の充実

これも、図書館法第三条第一項の規定にもあるように特に問題なしでしょう。ただし、「充実」の中身が「量」か「質」かにもよります。レンタルショップにはほとんど行く機会がない私ですが、かつての人気作がレジの横で二束三文で売られています。これを図書館で下取り…じゃないリユースすれば、収集・保管機能は「充実」することは間違いなしです。

4. 文具販売の導入

都立中央で文具の自動販売機を見たことあります。付箋とかシャーペンの芯とか、売ってくれて便利ですね。暴利でない限り、このような売店はサービスとしていいと思います。「2. 雑誌販売の導入」と同様に運営資金が捻出できればなおよしです。

5. 電子端末を活用した検索サービス

これも、目新しいサービスとは思えないですね。だいたいの館で利用者開放端末が置いてありますから。新しさを考えるのなら、無線LANとOPAC用にタブレット端末を館内貸出するくらいのことは、やってもらわんと…

6. カフェ・ダイニングの導入

かねて、書いたようにこれもおおいに賛成。Tポイント提携の「ドトール」と「ガスト」あたりになるのでしょうが…
ショッピングモールとラーニングコモンズが同居するのも楽しいと思います。ただし、市民の共有財産である本にカレーうどんの汁をとばさないことですね。

7. 「代官山 蔦屋書店」のノウハウを活用した品揃えやサービスの導入

実は、「代官山 蔦屋書店」に私は行ったことがないので、ノーコメントなのですが、「品揃え」という表現にしっくりこないものを感じます。

8. Tカード、Tポイントの導入

後述します。

9. 365 日、朝9 時〜夜9 時までの開館時間

まぁ、CCC(=カルチュア・コンビニエンス・クラブ)ですから…

Tカードで、得をするのは?

と、いうわけで
「8. Tカード、Tポイントの導入」
以外、特に目新しいものを感じませんでした。
Tカードについては「貸出履歴」「個人情報」の観点で議論がされているようです。
それらは、識者におまかせすることにして、自分として気になったことが二点。

1.無料貸本屋論争再燃

書籍の購入におけるポイントサービスの付与については、日本書店商業組合連合会などから、量販店(ポイントカード発行者)が書籍や雑誌をポイントカードの対象とする行為は再販売価格維持契約に違反(=実質的値引き)」に該当すると主張した論争があったように思えます。これに対して公正取引委員会は、購買者の利益になる見地で「再販売価格維持契約の対象外=独占禁止法違反」と判断。以後、日書連はポイントカードを容認する姿勢をとったことがあったような気がします。
但し、出版流通対策協議会(流対協)はいまだもって「ポイントカード絶対反対」の姿勢を崩さず、加盟社に自社の出版物をポイントサービスの対象外とすることを求めています。

・ポイントカードに関する申し入れ(流対協)
 http://homepage2.nifty.com/ryuutaikyo/news/news_saihan.htm#6

これらの論争・遺恨が、かねてからの「無料貸本屋論争」に「代理戦争」のカタチで再燃・飛び火するのではないか、心配なところです。

2.目的外使用で無料ポイント付与!

おそらく、図書館を利用すればポイントが加算されることが自慢なのでしょう。
それを逆手にとって、「目的外使用」する人間は確実に現れます。
つまり、毎日必要もない図書を借りて返却することを繰り返します。
一回資料一点につき1ポイント付与するのであれば、かなりのポイントをためることができます。たまったポイントでガストで食事するなりファミマで日用品を買えば、案外いい暮らしが待っているかもしれません。実に便利。「くらしの中に図書館を」とはこのこと。まさに、カルチュア・コンビニエンス!
そのような(目的外貸出利用の)方々が、貸出利用をガンガン押し上げ、少なくとも「貸出し」を指標とする限り武雄市の図書館は全国トップレベルになるでしょうなぁ…
まぁ、以上のようなことは、先に指摘されてましたね。

・「図書館で本を借りたらTポイント」TSUTAYAが公立図書館運営へ――Facebook市長「本の貸出履歴は個人情報ではない」- ガジェット通信
 http://getnews.jp/archives/204806

結局、最後に笑うのは?

で、
「一番トクをするのは誰か?」
ということですが…
Tカード・ポイントのほかは、とりたてて画期的なサービスを行うわけでもなさそうに思いました。
CCC=TUTAYAにしてみれば、これを機会に「信用」と「実績」を入手するつもりなのでしょうが、現実にスタートすれば専門家の厳しい評価にさらされることは間違いないでしょう。
そうなると、

  • 新機軸を打ち出し
  • 独自のポリシーを貫いて
  • (ポイント付与目当ての利用者による)貸出し数アップ

を成し遂げた「偉業」「伝説」を打ち立てた市長が「再選」を果たす…
メデタシ、メデタシ…ってか?