著作権を知らない司書がいる。それは私です

コメントにある素晴らしい取材協力

承前。
前のエントリでは、取材と館内撮影について書きましたが、さっそく「maruyama_takahiro」様よりコメントをいただきました。

僕がつとめている図書館では、視察や見学の際の撮影は「他の利用者様が写らない様にしていただければ、どこを撮っていただいてもOK」です。
ちなみに…デジタル万引きが犯罪になるのは「映画の著作物」だけです。
図書館では、シャッター音等の理由により蔵書の撮影をお断りしておりますが、シャッター音がでない撮影機であれば、蔵書のデジカメ撮影は、著作権法違反や窃盗にはあたりません。
また、もし館内の写真がご入用でしたら、こんなページもご用意しております。
http://www.flickr.com/photos/lib-yamanakako/sets/72157624531783108/

私の「問いかけ」に対する「お答え」としては、うん、実にすばらしい! 他の利用者様方への配慮と「取材協力」を高いレベルで両立させた、すばらしい取り組みだと思いました。「写真=素材集」を提供するとは心憎い限りです。

著作権知らない私がいうのも

実は、私は図書館司書生活のほとんどは、移動図書館・館外協力・学校司書・公民館司書に終始しました*1。そのため、あまり「文献複写」とか「著作権」とはほとんど無縁に終わりました。無縁の知識は退化(もたない、忘れてしまう)のが常。そのため、著作権について詳しくないという絶対の自信ありです。
まぁ、こんな私が「著作権」云々言い始めたことで、すでに地雷どころか、マカロフ提督座乗の戦艦ペトロパヴロフスクが機雷に触れたような事態。轟沈です。
それでも、コメント中盤の、

ちなみに…デジタル万引きが犯罪になるのは「映画の著作物」だけです。
図書館では、シャッター音等の理由により蔵書の撮影をお断りしておりますが、シャッター音がでない撮影機であれば、蔵書のデジカメ撮影は、著作権法違反や窃盗にはあたりません。

これには、違和感を感じました。
ここでいう「図書館」とはコメント者様勤務館のことでしょうけど、


図書館では、シャッター音等の理由により蔵書の撮影をお断りしておりますが、シャッター音がでない撮影機であれば、蔵書のデジカメ撮影は、著作権法違反や窃盗にはあたりません。

Wikipedia「盗撮」の項目では

デジタルカメラは普及初期にはシャッター音がまったくしない性質から盗撮に利用されることが多く、2000年にソニー・シャープの製品からシャッター音が付加されるようになり、日本製品では原則としてシャッター音が付加されない製品の発売はなくなっている。

ということで、これからはその図書館でもNGになるでしょう。というより、流れに関係なく、この文章そのものを見れば、
「シャッター音がでない撮影機であれば、蔵書のデジカメ撮影は、著作権法違反や窃盗にはあたりません=シャッター音がる撮影機であれば、蔵書の光学カメラ撮影は、著作権法違反や窃盗になります」
ともとられます。

デジタル万引き

揚足取り的な発言は慎みますが、たしかに図書館資料の撮影は「著作権法第30条の私的複製」に当たりますから、なるほど、たしかに著作権法違反には接しないかもしれません。
ただし、次のような事例があります。

熊田曜子デジタル万引き? テレビで「本をちょっと写メ」発言 (J−CASTニュース2008/6/23 20:15)
 http://www.j-cast.com/2008/06/23022300.html?p=all

この記事の最後に

文化庁著作権課によると、デジタル万引きで撮ったものをネットで流したり、複製して販売したりすれば、著作権法違反になる。

とあります。
本屋で本を窃盗=リアル万引きは即犯罪。警察行きですが、デジタル万引きの場合、他人に売ったり見せびらかすと違反。こう、考えればわかりやすいようです。

図書館界よりもシビア

案外、図書館員よりも世論やマナーのほうが進んでいるのではないか、そのような場面にも出くわします。
前述「Wikipedia」の「東京都立中央図書館」の項目では

館内に一部の荷物を持ち込んで入ることはできず(ノートパソコンは持ち込み可能)、ロッカーに預けることとなっている。これは蔵書の盗難防止や、カメラで図書の情報等を撮影されて不正にコピーされるのを防ぐことを目的としている。

とあります。
興味深いのは、「本家」の利用案内にも「規則」にも、それらしい記述は見当たりませんでした(もっとも、「この私自身が規則ですことよ…」的図書館員も少なくありません)。
とにかく、ここでは図書館よりも、「外」のほうが、よほど意識が高い、というか自然的マナーからルールへと発展していく気配です。我が国の市民社会も、まんざら捨てたもんじゃなさそうです。

イチブとゼンブ

さて、都立中央のハナシが出ましたので、話題にのせますが、図書館と著作権法といえば第31条があります。

(図書館等における複製)
第三十一条  図書、記録その他の資料を公衆の利用に供することを目的とする図書館その他の施設で政令で定めるもの(以下この条において「図書館等」という。)においては、次に掲げる場合には、その営利を目的としない事業として、図書館等の図書、記録その他の資料(以下この条において「図書館資料」という。)を用いて著作物を複製することができる。
一  図書館等の利用者の求めに応じ、その調査研究の用に供するために、公表された著作物の一部分(発行後相当期間を経過した定期刊行物に掲載された個個の著作物にあつては、その全部)の複製物を一人につき一部提供する場合
二  図書館資料の保存のため必要がある場合
三  他の図書館等の求めに応じ、絶版その他これに準ずる理由により一般に入手することが困難な図書館資料の複製物を提供する場合

実は、先日「利用者」として、都立中央でコピーサービスをしてもらいました(もっとも、コイン>セルフサービスですが)。
対象は人物記を集めた本。学生時代にお世話になった方の生きざまを、どなたかが人物伝に仕立てられ、他の作品とともにまとめたものですが、「自費出版」に近い本だったため、現在入集不能なのです。
短編集ですから、その一遍ずつが“一つの著作物”だと思いましたので、そのあたりを確認してみたいのと、もうひとつ
「その調査研究の用に供するために」
というフレーズ。現場の対応を知るために、その本の目次を見せ、
「このP××からP◎○までの著作物全部、お楽しみのために複写したい」
と申し出ました。
応対した女性は不思議そうに“どこがおかしいのか”という表情で、
「この本全部の半分に満たないじゃありませんか。大丈夫ですよ」とのこと。
なるほど、この女性スタッフは、
「図書館員の、著作権ならびに著作物の認識と複写物に対する対応」
を私が“調査研究”していることを洞察し、見抜いてしまったのであろう! 畏るべし! 都立中央図書館!!
それでも、セルフコピーしながら、思わず口ずさみそうになったのは、B’zの
「イチブトゼンブ」

*1:こう、書いたらかなり加齢した感じがする…実際、事実なのだが…