「本の相談」はなぜ否定されたのかⅡ〜奉仕対象の異動「集団から個人へ」を巡って〜
とある事典の記述
前回エントリでは、「本の(読書)案内」について触れました。今回も自分の経験と重ねて考えてみたいと思います。
私は学校図書館勤務経験がありますが、埃をかぶったかなり昔の本が「現役」であることが学校図書館の良さ(?)でもあります。
書誌とか記述内容の詳細については忘れましたが、かなり昔の某問題研究会の図書館カンケー用語集で「読書案内」をひいたら、おそらく「読書指導」へ“をもみよ参照”で誘導されてしまい、その項目に“思想善導”などという言葉をつかったネガティブこのうえない解説に腰を抜かしたことがあります(このあたり記憶がおぼろげなのでまちがっていたらご指摘ください)。
“戦前の失敗の徹底的に検討”の成果?
そういえば、あまりにも有名な『中小都市における公共図書館の運営(中小レポート』
中小都市における公共図書館の運営―中小公共図書館運営基準委員会報告
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大部分の図書館員は「神州不滅」は信じないまでも,世界情勢をしっかりと認識できていなかったようである。だから,戦前の失敗を徹底的に検討することもなく,古い図書館理念のまま,アメリカの「民主化」政策を受け入れなければならなかった。(p47)
と、あります。
たしかに戦前戦中において“皇国史観”“愛国心”とか“富国強兵”が叫ばれ、それは出版文化はもとより歌舞音曲(軍歌とか『愛国行進曲』など)にまで及びました。その中で図書館及び図書館員もそれらを受入ざるをえなかったし、疑問・異議を口にすることすらはばかられた、という経験から、そのような流れに警戒することは当然の成り行きでしょう。
プロパガンダ
ここで考えてみたいのが「プロパガンダ(propaganda)」。
今日的には
(個人・団体・運動・制度・国民などの弁護または誹謗ひぼうの目的で)流布された情報(話) デマ,うわさ,偽りのニュース*1
などと、どちらかといえばよくない語感・語義で語られています。
が、最初にプロパガンダと言う言葉を用いたのは、カトリック教会の布教聖省 (Congregatio de Propaganda Fide) の名称だそうです。「正」から「偽」、「聖」から「俗」へ、。あまりの変貌に驚かされます。
横道にそれましたが、プロパガンダの今日的意義では、
特に、ある政治的意図のもとに主義や思想を強調する宣伝。
をさします。宣伝なりキャンペーンなりは、不特定多数に対し同時多発的に行なうのが「効率的」です。まぁ、個人個人を相手に“祈伏する”ような行為を積み重ねる、という手法もありうるけれども、かなり面倒くさく時間と手間がかかります。
つまり、
集団から個人へ〜図書館奉仕の変貌〜
ハナシをと公共図書館に戻しましょう。
前述の『中小都市における公共図書館の運営』
では、
これまでの図書館関係の調査は,大部分,集団から切離された個人を対象としすぎたきらいがあったと思う。(p73)
と指摘し、
(略)広く有効に図書館資料を市民の身近に提供しようとする場合,個々バラバラの人間を相手にするより,いろいろな形で集まっている団体をつかんだ方が有効であることはいうまでもない。(p74)
と、あります。
「中小レポート」と「市民の図書館」
図書館史においては、一連・セットで語られることが多い、「中小レポート」と『市民の図書館』
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- 集団から個人へ
という、パラダイムをじゅうぶん理解していれば
という思想は本来でてくるはずもなかったわけです。
しかしながら、「中小レポート」から30年、『市民の図書館(初版)』から20年を経て、「読書(本の)案内」に対する反対論(前回エントリに書いたとおり1990年代)においては、そのような「過去の遺物」が出てくるはずは、まっとうにいえばありえないことです。
ただ、前回申し上げた
- とにかくプライドが高く
- その割には、実務経験が案外ない
うえに、今回のエントリでは
- 図書館問題研究会というギルドの掟を優先し
と書き加えたると
「云うだけ司書」
のメンタリティーによるものであったと断言できますし、
“もはや戦後ではない”
時代での
“思想善道の見地からの反対意見”
とは、
“反対のための反対”
でしかない、いうなれば後付の“反対理由”であったと。
私はそう思います。
図書館問題研究会などの中のひとたちにしてみれば…
もっとも、図書館問題研究会とかの中の人たちにとっては、フツーの市民とは意識・価値観は大きく異なることも言及しなければなりません。
先述の「プロパガンダ」ですが、大戦後、特に顕著だったのは全世界的にはソビエト連邦をはじめとする共産圏の国々でした。国内では「左翼」とか「反核平和」「労働運動」など。いずれも図書館問題研究会の方々が好んだり親和性を感じたものです。
つまり、図書館問題研究会にとって「プロパガンダ」は身近な存在であったともいえます。