日本図書館【教】会が“免罪符”の販売を開始するのか!? <認定司書制度の開始にあたって>

今日も熱帯夜。不快指数の高い夜です。
が、本日配達された図書館雑誌

 

図書館雑誌 2010年7月号(Vol.104 No.7)
  http://www.jla.or.jp/publish/bindex.html


ただでさえ高い不快指数を倍増させるような文章に接しました。
糸賀雅児先生の
「認定司書制度の開始にあたって*1
を読みました。以下、自分の意見(すらしたくなるのもバカバカしい!)・感想を申し述べます。

自画自賛なのか自虐ネタか

冒頭、糸賀氏は次のように述べている。

もう少しスピード感をもって実現させたかったのは事実だが、まずは制度の開始決定を素直に喜びたい

と感想を述べている。氏がご自分で“素直に”と書いているだけに、氏のおそらく率直で素直なご発言なのであろう。しかし、読み進めると、

この間の関係者による議論と取り組みを“失われた10年”にしないためにも

という文面に出くわす。氏が制度の立ち上げに熱心で、ベストを尽くしたというのなら“失われた10年”とは何事であるか(おそらく、遅れに伴う金銭的損害も少なくない。そしてそれらは我々会員の会費によって賄われることを考えれば)。
遅れの責任を糸賀氏一人に負わせる意思はありませんが、関係者一同を代表し、「謝罪」「遺憾」の意が評されるべきかと思います*2

最初から“目的外使用”を前提とした“趣旨と目的”

で、その内容ですが、認定司書制度の趣旨としては、

日本図書館協会図書館経営の中核を担いうる司書を専門職員として認定する

という趣旨には首肯できますが、その“目的”となると、

この制度は、司書の専門性向上にとって、図書館での実務経験とそれに伴う実践的な知識及び技能の継続的な取得が不可欠であることから、所定の要件を充足した司書を日本図書館協会が公的に評価・認定するものである。
(略)
この制度化により、十分な知識と機能そして意欲をもって図書館に勤務する司書の継続的かつ安定的な雇用が確保され、わが国の図書館全体の振興につながることが期待される。

となっております。氏の云う“失われた10年”は、たしかに図書館と図書館職員をとりまく事情は変化しました。おそらく“安定的”というのは、非正規職員の増加に配慮せんがための後付けの理由であって、本当の目的は、「正規職員の地位向上=異動阻止・民間委託阻止・事務職での任用換阻止」ということです。このあたり、ピンとこないような“鈍い”図書館司書の方々のために、氏はわざわざ丁寧に力説しておられます。

少なくとも、正規職員の司書の配置が減少するなかで「必勝」とは言えないまでも「このまま負け続けない」ために打つべき一手であることは間違いない

ご本人がそうおっしゃっておられるのだから、“間違いない”んでしょうね。揚げ足取るつもりはないけど、このような皮算用がイマドキ通用するか、怪しいものだと思いました。まぁ、少なくとも糸賀先生たちが正規職員のことを一所懸命考えていただいた以上、10年後この論を読み返し「大苦笑」にならないことを祈るばかりですが…
同時に気がついてのは、前々回あたりでも述べました「市民不在」。実務経験豊富・知識豊富な職員による充実したサービスは誰のためかといえば、それは市民・納税者のためなのでありますが、ここには“市民サービスの向上”という文言がありません。地方自治体・社会全体が困窮する中で、これらの諸問題解決をサポートする図書館職員の存在は重要であるし、そのような市民の信託をえてこそ公共図書館は成立するわけですが、その公共図書館サービスの(直接・間接とわず)向上について言及していないことが気になります*3
もうひとつ気になるのは“わが国の図書館全体の振興につながる”というフレーズ。これについては、次に述べましょう。

公共図書館員以外ハ図書館員ニアラズ

で、認定要件ですが次のとおりです。

ア・図書館法第2条にいう図書館の勤務経験が通算10年以上
イ・最近10年間で研修の受講歴等が通算20ポイント以上
ウ・最近10年間に著作を発表している、またはそれに相当するものを有している
エ・図書館法第4条にいう司書、または同条にいう司書となる資格を有する

このうち、物議をかもしだすのは(あ、もう出てますね)、“ア・図書館法第2条にいう図書館の勤務経験が通算10年以上”という条件。すなわち公共図書館ONLYということですね。
大学図書館に勤めている方々には大変申し訳ありませんが、詳しく調べてはおりませんが、大学図書館には論文・紀要などを執筆・発表される方が、公共図書館員に比して多いため(それ故、公共図書館員の執筆活動の興隆が叫ばれておりますが)、申請を“図書館類似施設としての大学図書館”まで広げてしまうと、大学図書館員の方々ばかりが殺到し、認定司書の大多数を占めてしまうのを恐れてのことでしょうか。
前項“趣旨と目的”において“わが国の図書館全体の振興につながる”というフレーズがありました。ここでの“図書館”とはいったいなにをさしているんでしょうか? 「公共図書館」のことだけなのでしょうか?
地方自治体立大学・公立高校を所管する地方自治体には、“司書”の人事交流があります。私も以前、学校図書館で働いたことがあります。が、司書の基本的職務(すなわち、資料の収集、整理、保管、提供や、参考調査(レファレンス)、他の図書館との連携・協力など)は細部はもちろん差異がありますが、根本的には変わらない。いやむしろ「異動」したことによって、視野や人的ネットワークの広がり、異種図書館との交流の重視など、一段と成長したと思っております。「異動」の効用はいわずもがなですが、それを「阻止」するとは…
とにかく糸賀センセー、ご自身の大学図書館でスタッフにお茶を入れてもらっても飲まないほうがいいです。私がスタッフだったら、お茶に雑巾の搾り汁を入れさせていただきます。

図書館経営の中核を担いうる司書に必要な要件

ところで、冒頭の趣旨に“図書館経営の中核を担いうる司書”とありましたが、実際この趣旨にそった司書に求められる能力とは何なのでしょうか?
どっかのグランプリからの流用ですが、リーダーシップやファシリテーションアジェンダ設定やビジョン提示、パブリックスピーキングの能力と経験であるかと思いますが…
今回の制度の開始にあたって、これからの司書に求められているものや足りないものを補わせる、ということも意義があると思うのですが、検討チームはリーダーシップやファシリテーションというものに重きをおいていない。というよりも彼ら彼女ら自信がじっさいのところ、リーダーシップやファシリテーションアジェンダ設定やビジョン提示、パブリックスピーキングの能力と経験をまったく欠いていたと推測させてもらいます。なぜなら、それらが委員各位が十分理解し効率よく議論を進めてさえいれば、冒頭にもあった“失われた10年”が生じることはなかったでしょう。

協会財政への寄与こそが目的?

昨年の予備審査では、審査料7,000円、さらに認定料20,000円を日本図書館協会に納める決まりになっていました。実際にはこの金額、いまの協会財政からいえば、もう少し高くなるかもしれません。
しかしながら、民営化・指定管理者・非正規職員化・人事異動・任用替などの“ダモクレスの剣”におびえている直営公務員司書のみなさんは、要件さえ満たせば、「認定司書」の称号を「買う」ことでしょう。

少なくとも、正規職員の司書の配置が減少するなかで「必勝」とは言えないまでも「このまま負け続けない」ために打つべき一手であることは間違いない

という権威ある、そして伝統を誇り、腐敗しつつある教会協会の詔を信じて…それはあたかも「免罪符(贖宥状)」を買い求めに走る貴族(公務員司書)のようです。
その免罪符、効用あるかはまさに
神のみぞ知る
ところです

*1:糸賀雅児,認定司書制度の開始にあたって,図書館雑誌,104巻7号,2010年,p423〜426

*2:“我々なりにベストを尽くしたんだから、遅れても失敗しても謝ることはない”このメンタリティ、司書のもつ悪癖のの代表格と思う

*3:もっとも、糸賀センセイにこのようなコト云えば、本人青スジ立って「わかりきったことをいうな!!!」と一喝されますね。オールドタイプの大学教授には往々にしてこのような方がおられます。ご用心。